2012年08月01日
透湿防水シートに劣化問題
高断熱・高気密化された住宅躯体の耐久性を確保する「通気層工法」に欠かすことのできない透湿防水シート。09年6月の長期優良住宅普及促進法の施行、同年10月の住宅瑕疵担保履行法の本格施工から3年余り。瑕疵保険に関わる漏水事故が発生した竣工後10年以内の戸建住宅で、ボロボロに劣化した透湿防水シートの事例が相次いで報告され、同シートの品質が低下しているのではないかと波紋を呼んでいる。事態を重視する住宅瑕疵担保責任保険協会は、市場に出回る透湿防水シート10数種類を無作為に抽出し、JIS規格に基づく適合評価試験を本年度中に実施する方針。その試験結果によっては透湿防水シート協会に対して事故の原因解明を求めることも。躯体の耐久性に関わる「性能部材」の品質に、初めて改善指導のメスが入る可能性が出てきた。■瑕疵保険が引き金
透湿防水シートの性能劣化が問題視される発端のひとつは、防蟻・防腐剤によるシートへの影響だった。
従来、防蟻・防腐剤が十分に揮発した構造材を使用する限り、シートへの影響がほとんどないと考えられていた。しかし、長期優良住宅の認定開始以降、通気胴縁に対しても防蟻・防腐処理するケースが増加し、浸入した雨水に溶けだした薬剤がシートの防水性を低下させ、結果的に性能劣化を招いた事例が報告され始めた。
シートの性能劣化に関わる材質と薬剤の因果関係は明らかではないが、シートに対する防蟻、防腐剤の影響は以前から指摘されていた問題。一方で、竣工後10年以内の戸建て住宅で漏水事故が発生し、補修工事の現場でボロボロに劣化したシートが散見される事例が報告されてもいた。
住宅瑕疵担保履行法が09年10月1日から本格施行され、同日以降に新築住宅を引き渡した建設業者及び宅建業者に対して保険加入や保証金供託による資力確保が義務付けられて2年余り。一部の保険法人からシートの性能劣化に対する疑義が出され始めている。
漏水事故の原因はさまざまだが、これまで単なる雨漏りとして見過ぎされてきた可能性が高い過去の漏水事故に、シートの劣化が損害の拡大を招いていたと考えられるものがあり、保険法人は「賠償金の支払いリスクが高まっている」として国交省に情報提供を行っている。
■「お知らせ」通知
シートの性能劣化は想像以上に潜在している可能性が否定できない。
保険法人で組織する住宅瑕疵担保責任保険協会は事態を重視し、国交省瑕疵保険対策室の指導の下、透湿防水シート協会に対して性能試験データの提供を要請した。
今年3月22日には同協会加盟社宛てに「お知らせ」と題した文章を発出。「次年度(12年度)において市場から無作為に選定した10数種類のシートのJIS全試験を実施する予定で準備を進めている」と通知した。「事件実施の結果次第では国の指導に基づき瑕疵保険業界として事故の原因解明を求めていくことがある」とし、透湿防水シート業界による自主的な性能調査の実施及び結果報告を要請している。
■ローコストのツケ
透湿防水シートのJIS規格(JIS・A・6111)は、同協会の前身である懇話会が参画し、第1版を制定・UV照射のみだった耐久性試験に熱負荷などが追加されるなど、10年の瑕疵保証に対応する項目を追加、04年(平成16年)に現行の最終版を制定している。
しかし、JIS規格への適合は各メーカーの自主表示に等しく、これまで市場流通品からの抜き取り試験などは行われていない。いわゆる自己適合宣言による、メーカーの自主的な品質管理に依拠している。
シート施行は一般的に外装工事業者が行う場合も、その材工価格は住宅会社の仕切りで決まるケースが多い。結果的に、住宅のローコスト化が部資材の材工価格に伝播し、コスト削減のツケがシートの性能劣化を招いたとみられる。
ただ、シートの性能劣化は建築基準法等の法律・告示に抵触するものではなく、国交省としても直接的な行政指導に踏み出せないジレンマを抱えているとみられる。一方で、躯体の耐久性に関わる性能部材の品質管理は、長期優良住宅の維持保全計画(30年間)やインスペクション(建物検査)の標準化に向けた重要課題のひとつでもあり、シート劣化の疑いが事実ならば改善指導に本腰を入れるだろう。
保険協会等による原因解明の成り行きによっては、住宅業界への影響も少なくなく、その行方が注視される。(北海道住宅通信社記)
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